エッセンシャル・デジタルマーケティング

デジタルマーケティング戦略の作り方

女性向けマーケティングを絶対に成功させる方法(と、マーケティングにおけるジェンダーバイアスの話)

先日、このような記事を書いたところ、多くの人にご覧いただきました(ありがとうございます)。

Instagramと同じように、「女性向けマーケティング」について聞かれることも多くありますが、そんなの僕に聞いてどうするんだという話ですよね。

 

ということで、二度と僕にそういう相談が来ないように、女性向けマーケティングがことごとく失敗する理由である「マーケティング業界を蝕んでいるジェンダーバイアス」の問題について書きます。

あ、女性向けマーケティングを成功させる方法は、一番最後に書いてありますので、読みたかったらどうぞスクロールしてください。長いので。

 

「女性向けマーケティング」がことごとく炎上する理由

近年、女性を扱ったコマーシャルや企業プロモーションが、強い批判を受けるケースが増えています。

男性向けの商材だけではありません。女性をターゲットにした商材でも、同じようなケースが多発しています。

 

 

これらに関しては、様々な形で(女性の側からも)擁護する意見がありますし、「このCMは問題ない」という意見を聞いたことも少なくありません。

しかし、いずれにしても、大きな批判を産んでしまうようなクリエイティブが多発していることも事実です。

エンパワメントを重視する海外、「かわいくならなきゃ」の日本

海外と比較すると、その差は明確です。下記2つのキャンペーンはあまりにも有名ですが、女性であることを肯定する内容で、高い評価を得ました。

www.youtube.com

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ご紹介したものだけではありません。

近年、「エンパワメント」という考え方が浸透し、とりわけ女性をターゲットにした商材においては、エンパワメントなくしてクリエイティブが成り立たないほどです。

例えば、イギリスではすでに広告基準協議会(Advertising Standards Authority)という団体が、性差別的表現を規制することを発表しています。

 一方、日本で「女性応援」というと、なぜか

もっとキレイにならなきゃ

もっと化粧をしなきゃ

もっと可愛くならなきゃ

という表現が多用されています。

 

マネジメント層が「炎上」を過小評価している?

本来ブランドマネジメントを考えている企業であれば、これは極めて深刻な事態であるはずです。

自社の事業にクリティカルな「ブランド」を毀損するような炎上が、何故起こってしまうのでしょうか。

海外の事例を見てみます。例えば、H&Mが、一部オンラインストアで、黒人のモデルに対して「サル」などと書かれたシャツを販売していた件です。

多数の著名人から「もうH&Mとは仕事をしない」などとステートメントを出され、販売計画にまで影響をするほどでした。要は無茶苦茶大事になったわけです。結局、幹部が謝罪することになりました。

しかし、これはあくまで担当者レベルの話で、大きな予算を組まれたキャンペーンでここまで炎上するというのは、欧米では考えづらいでしょう。

日本は、ビッグバジェットのキャンペーンですら、時々炎上してしまう、という点において海外とは一線を画しています。

 

男性マネジメント層に最適化されていくクリエイティブ

男性差別、と思われる広告もあります。

しかし、炎上する内容は、お金を持っていないやモテない男性を馬鹿にしたり、「イケてないおっさん」的なものを揶揄したりするものが多く、自分がイケてて金持ちだと思っている人を批判するようなものは多くありません。

つまり、あくまで男性社会というカーストの中で下位の人を叩くものです。

例えば、消臭剤や芳香剤のCMで加齢臭を気にするのは、若くてかっこいい男性だったり、焼肉食べたあとだったり、野球をやった後の高校生だったりしますよね。


「会議で偉そうなことを言っている社長からも加齢臭が……」みたいなCMは見たことありません。まあCMもたくさんあるので、どこかにあるかもしれないですが(予防線)。

と考えると、日本の広告表現、あるいはクリエイティブというのは概ね、「クライアントである大企業の、男性マネジメント層に最も気に入られそうな表現」が使われているのではないか、という仮説が成り立ちます。

ちなみに、僕は「女性が男性上司に容姿を馬鹿にされて『変わらなきゃ』と気づく」というストーリーを見たとき、いかにもクライアントの偉い人が喜びそうなファンタジーだなーと思いました。

 

そもそも女性経営者が少ない日本

一つの原因は、女性のマネジメント層が少ないことに有ります。例えば、先ほどご紹介した Unilever 社のボードメンバーには、二名の女性がいます。

一方、日本の女性取締役比率は先進国では最低クラスです。東京商工リサーチによると、6割の上場企業で女性役員はゼロ、全体では3.8%にとどまっています。

フランス、ノルウェー、オランダ、アイスランド、スペインなどではすでにクオータ制(取締役会の中に一定数の女性を登用する)を義務付けており、カリフォルニア州でも女性の取締役を義務化する法案が話題になりました。

人口の50%が女性である以上、本来、男女のリーダーは人口比に従うのが自然でしょう。

 

意思決定が現場に降りてこない

もう一つの原因は、意思決定が現場に降りてこないことです。

特に、権限委譲が行われず、上の承認が必要な組織であれば組織であるほど、その「上」に最適化したクリエイティブが増え、思い切ったキャンペーンが打ちづらいのが現状でしょう。

これは、結局のところ、あらゆるマーケティング・コミュニケーションにおいて共通する問題といえます。

つまり、実際にそれを見る人・使う人と、その決済を下ろす人の間に大きな乖離があり、それが解消されていないことこそ、日本の本質的な問題点であるといえます。

 

つまり、これらを総合すると、

マネジメント・リーダーシップが多様性を失い、均質化している 

マネジメントが、現場や顧客を理解できていると思い込んだまま、権限委譲を怠っている

この二つが、日本のマーケティングのブレークスルーを阻んでいるといえるのではないでしょうか。

 

バイアスの先に、新しいマーケットがある

今回はジェンダーの話に絞りましたが、決してこの問題はジェンダーだけの話ではありません。

近年、「○○女子」など、「女性はこんなことやらないだろ」という業界に女性が多数訪れたり、「新宿ゴールデン街」のように、日本人には思いもつかないような場所が観光名所になっていたり、というケースが増えています。

また、インフルエンサー(Instagramer、あるいはYouTuberを含め)が影響力を増していますが、これも「ユーザーに極めて近い当事者」が宣伝するから意味があるわけです。

当事者だからわかること、というのは確かに存在していて、それを理解するためには当事者に話を聞くしかないのです。

 

理解できないことを理解しよう

多分、私には永遠に今の10代のことはわからないでしょう。女性のこともわかりません。10代の女性向け化粧品のクリエイティブを作れ、と言われたらかなり困ると思います。

でも、それは当たり前のことです。私にはそれが理解できない、ということを理解していればいいのです。

多様性とは、他人の目でものを見るということであり、多様性なきマーケティングは、結局のところ独りよがりになってしまいます。


「他人の目」を失ってしまったこと、自分はなんでも理解できると驕り高ぶった決済権者が多いことが、日本のマーケティングを硬直化させ、このような炎上事例を多発させている原因ではないのでしょうか(自戒を込めて)。

 

最後に

女性向けマーケティングを成功させるには、もし自分が当事者でなければ、当事者(か、当事者に出来るだけ近い人)に決めてもらい、それを理解しようと務めること、そして究極的には、自分には理解できないということを理解することが重要です。

うぬぼれないこと、大事。