エッセンシャル・デジタルマーケティング

デジタルマーケティング戦略の作り方

プレ・マーケティングの時代

 

世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング

世界基準で学べる エッセンシャル・デジタルマーケティング

 

ここでは、事業を立ち上げる前にマーケティングをはじめることを提案します。リーンスタートアップやクラウドファンディングなどトレンドの手法を使いながら、「いかにリスクは少なくマーケティングを行うか」を提案します。

プレ・マーケティングの時代❶ ―― クラウドファンディングの流行

本章では、「プレ・マーケティング」という概念を提唱します。プレ・マーケティングとは、実際に製品を開発し、販売する前に行うべきマーケティングです。たとえば、Webサイトの公開前に、TwitterのフォロワーやFacebookページのいいね数、メールマガジンの購読数が一定数あれば、最初の反応が変わってくるでしょう。スマートフォンの普及により、顧客とつながる方法が多様化していることも見逃せません。このように、製品やサービスの公開前に顧客とつながることは、様々な好影響を、製品やサービスにもたらします。

2016年11月、戦時中の広島県呉の生活を描いた長編アニメーション映画『この世界の片隅に』が公開されました。この映画は公開から1年半以上経った今でも(18年8月現在)、劇場で上映されており、異例のロングランです。18年に入って、興業収入が27億円を超えたと言われています。

 

公開当初はわずか63館での上映でしたが、観客の口コミによって評判が徐々に広まり、結果、映画館での上映は400館を超えました。実はこの映画、他の映画とは違う画期的な点が1つあります。それは、クラウドファンディング(不特定多数による、リターンを前提としない投資)を利用した資金調達で、制作費の一部を負担していることです。実際、3374人の一般のファンから出資を募り、約3912万円の資金調達ができました。

このクラウドファンディングでは、出資者が6つの支援コースの中からコースを選び、出資します。支援コースによっては、本編のエンドロールに出資者の名前がクレジットされるそうです。

用語解説 : クラウドファンディング(Crowdfunding)

多数の出資者から出資を受け、現金ではない形でリターンを返すファンディング(出資)手法を指します。

制作前からお金を出す明確なファンがいることから一定の需要が見込め、彼らが口コミで広めてくれるので、実際に製品完成後もSNSなどでの拡散が期待できます。ファンディングプラットフォームとして世界的に有名なKickstarterは、17年9月に日本版サービスを開始しました。

クラウドファンディングは寄付ではありません。

純然たるマーケティングの手法です。事前に一定額の資金を集められるため、クラウドファンディングのような仕組みは、制作する側にとっても効果が高いのです。

このように、製品完成前や事業スタート前からマーケティングによって顧客を集める手法を、本書では「プレ・マーケティング」と定義しています。なぜプレ・マーケティングという手法を提唱しているのか。それは、充分なマーケティングを行わないまま失敗した企業が、今までに多数存在してきたからです。

クラウドファンディングの流れ
❶一定額を出資
❷一定額に達すれば、プロジェクトがスタート
❸出資額に応じて、金銭ではないリターンを提供

まず、需要があるかどうかを確認して、それから作る。これによって、誰もほしがらないものを作ってしまうという最大のリスクを避けることができます。

クラウドファンディングだけではありません。スタートアップ企業でも、完成版の製品を公開する前に、未完成の「ベータ版」の製品を公開し「ベータリリース」として、顧客を集めるなどの手法が取られます。

 エドセルの失敗

もっとも有名な例は、アメリカの自動車メーカー、フォード社が発売した「エドセル」でしょう。当時のフォード社は、世界最高の市場調査能力を持っていました。様々な機能と斬新なデザインを備えたその車には、重大な欠点がありました。一度も顧客へのテスト販売をしなかったのです。エドセルは、フォード社が大々的に発表し、全国で発売されましたが、大失敗に終わりました。ほとんど売れないばかりか、フォード社に莫大な負債を残してしまったのです。


AdKeeperの失敗

何億、何十億円も投資を受けたベンチャー企業やスタートアップ企業でも同じ失敗をすることがあります。スタートアップ企業のAdKeeperは、新聞広告を切り抜きするように、オンライン広告を保存できるサービスを顧客に提供していました。しかし、数千万ドルを調達した後にわかったのは、顧客は広告を保存などしたがらない、ということでした。(参考

かつては、プロダクト・アウトかマーケット・イン、どちらが正しいのか?という論争がありました。今ではナンセンスな問いでしょう。顧客が必要とするものを作らなければ、大失敗することが明らかになっているからです。マーケターに求められる能力は、顧客が必要とするものをどのように実現し、表現するか、ということです。プレ・マーケティングを行わない理由は、何ひとつありません。

プレ・マーケティングの時代❷ ―― リーンスタートアップの流行

プレ・マーケティングの考え方は、生存競争の激しい、北米や欧州のスタートアップ企業(ベンチャー企業)にも浸透しています。スタートアップ企業は、今までに存在しないサービスを立ち上げます。つまり、すでにニーズが証明されている既存事業よりも、より多角的な観点から、顧客のニーズが存在するかを検討しなければいけません。特に、トヨタのかんばん方式を起業や新規事業の立ち上げに応用した「リーンスタートアップ」の手法は、マーケティング・ファーストそのものであると言えるでしょう。

コストを掛けずに、MVP(必要最小限の製品)を作り、可能な限り早く顧客からのフィードバックを得ることを目的としたスタートアップ立ち上げのメソッドです。「複雑な計画を立てるのではなく、シンプルにはじめる」「軌道修正を常に繰り返す」などのモットーがあり、スタートアップ業界ではメジャーなメソッドとなっています。

リーンスタートアップは、2008年にアメリカの起業家であるエリック・リースが提唱しました。リースは、著書『リーン・スタートアップ』(日経BP、2012年)の中で「最大のリスクは、誰もほしがらないものを作ってしまうことだ」と述べています。

リーン・スタートアップ

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  • 作者: エリック・リース,伊藤穣一(MITメディアラボ所長),井口耕二
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ベンチャー業界の分析企業、CBInsightの調査1-6によると、スタートアップ企業やベンチャー企業が失敗する最大の理由は「そもそもマーケットに需要がない」ことを1番に挙げています。
このような現状を元にしたのが、リーンスタートアップの概念です。私たちの住む世界はとても不確実で、計画どおりに物事が進むとは限りません。だからこそ、常に顧客とつながり、製品やサービスを改善し続ける必要があるのです。

プレ・マーケティングの時代❸ ―― ドッグフーディングで既存事業を見直す

「ドッグフーディング(Dogfooding)」「EatYourOwnDogfood(自分の犬の餌を食べてみろ)」。これらは、IT業界の現場でよく使われる言葉です。意味は、新しい製品や機能を開発したとき、まずは社内で率先して試用することを言います。それでは、既存事業を見直すときに、ドッグフーディングはできないでしょうか?自社だけではなく、付き合いの長い企業などにまず試してもらうことで、その後のマーケティング戦略を明確にすることができるはずです。